移住者インタビュー

風景とともにある自然にやさしい農のかたち
祖父母の所縁があった南丹市で農家に転身

風景とともにある自然にやさしい農のかたち祖父母の所縁があった南丹市で農家に転身

今回は、2018年に新規就農・結婚を機に京都市から南丹市へ移住されたSLOW FARMの佐伯遼平さんにお話を伺いました。会社員から自然栽培農家に転身したきっかけや、新規就農に至るまでのエピソード、移住後の暮らし、農と人をつなぐ新たな取り組みをご紹介します。

佐伯遼平さん

自立した生き方を目指し、2016年に京都市内から祖父の暮らしていた南丹市へご夫婦で移住。2年間の農業研修を経て、2018年から八木町神吉で「SLOW FARM」をスタート。年々厳しくなる気候に苦戦しながらも、多くの方々と手を取りあいながら、農ある暮らしを楽しんでいらっしゃいます。畑がより身近な場所になればと、シェア畑「根の音」などの取り組みも行われています。

はじめに、移住を考えはじめたきっかけについてお聞かせください。

佐伯さん:移住前は、京都市内で医療機器のディーラーの仕事をしていました。5年ほど働いた頃、これからも企業で働き続けることに違和感を覚えました。会社で働くと、労働の対価として給料をいただくことが一般的です。生活をしていくためにはもちろんお金が必要なのですが、そのお金を稼ぐために会社に所属し続けなければならないのか、ほかの選択肢はないのか、一度足を止めて考えてみたくなりました。

SLOW FARMがお届けする野菜セットの一例(写真提供:佐伯さん)

佐伯さん:一時は転職も考えたのですが、組織で働く以上はきっと同じところでモヤモヤするんじゃないかと思い、もっと地に足をつけて生きていきたいと強く思いました。状況を変えるためにまずは何から始めるかを考え、自分の手で食べものを育てることにしました。働きながら、週末は宇治市で開催されていた有機農業の実践プログラムに1年間参加しました。最初から移住を考えたというよりは、まずはライフスタイルを変えたいと思ったことがスタートでしたね。

当初から有機農業を学ぼうと考えられていたのですか

佐伯さん:最初は、「農薬を使って野菜をつくるかどうかだったら、できる限り使わないほうが環境にいいよね」ぐらいの感覚でした。生まれ育った場所が京都御所の近くで、土がない環境だったので、野菜を栽培するのはプログラムが初めて。その分、ひとつ一つの作業がとても新鮮でした。始めは自分に野菜がつくれるのだろうかと半信半疑だったのですが、週末畑に行くと先週行った作業の成果がかたちになっているんですね。

SLOW FARMの圃場(写真提供:佐伯さん)

その翌週はさらに成長していて、スーパーで見かける野菜の姿になっていました。収穫した野菜を持ち帰ると、家族がおいしいと食べてくれ、種を蒔いて育てていく過程がどんどん楽しくなりました。参加していた「Small Farmers College」は、野菜の栽培方法だけでなく、どのように農のある暮らしを実現するか、生業をつくるかということも教えてくれ、仲間と話しているうちに独立や起業に対してのハードルが低くなっていきました。「起業」は何か大きなことをしなければならないと思っていたのですが、小さな始め方があると気づかされましたね。

プログラムに参加されたあと、すぐに起業されたのでしょうか

佐伯さん:まずは一念発起して会社員を辞めました。しかし、いきなり農家になることに不安があったので、最初は制度を活用して亀岡市の先輩農家の元で2年間研修を受けました。1年間のおおよその流れを身につけ、研修が終わる頃に八木町での圃場探しがスタートしました。八木町はもともと祖父母が暮らしていた場所で、祖父母が他界してからは、駅の近くにあった家が空き家になっていました。移住するなら住まいはそこがいいと考え、近くの圃場を探しました。

標高が高い圃場で育つSLOW FARMのお米や野菜(写真提供:佐伯さん)

佐伯さん:圃場を探そうと八木町内を車でまわっていた時に、神吉地区の美しい風景にすごく感動したんですね。ここで農業がしたいと思っていたところ、丹波ハピー農園の堀さんが主宰していた交流会でたまたま神吉地区で自然栽培の米づくりをしている先輩農家と出会い、その方の紹介で農地を見つけることができました。

現在は、年間でどのくらい野菜を育てているのでしょうか

佐伯さん:スーパーに並ぶようなオーソドックスなものから変わり種まで、年間約40〜50品目を栽培しています。販路は個人のお客さまに向けて、毎週金曜日に配達を行っています。また、同じタイミングで研修を受けていた亀岡市・南丹市の農家10軒が集まり、7年前から「京+草ビラ(きょうとくさびら)」というグループを組んで、メンバーの野菜も共同で出荷しています。

マルシェ出店時の様子(写真提供:佐伯さん)

これから取り組んでみたいことはありますか

佐伯さん: 現在、僕の圃場は一町歩(10反、約9,900㎡)あります。一人では管理しきれない大きさになるので、さまざまな活用方法を考えているところですね。農家として生活をしている以上、野菜を買っていただけるのはもちろん嬉しいことです。ただ、僕自身はもっと畑を身近に感じてもらえる工夫をしていきたくて。

自身の街中での暮らしを思い返してみると、30年間土に触れる機会がほとんどなかったですし、そうしたライフスタイルが生産者と消費者という立場を明確に分けてしまったように思います。その垣根をなくしていくことに関心があり、2025年春から仲間と一緒に「シェア畑 根の音(おと)」という取り組みを行っています。

年間約20種類の野菜と大豆を育てる「根の音」活動の様子(写真提供:佐伯さん)

佐伯さん:一般的な貸し農園のように区画分けをして貸し出すのではなく、一枚の畑をみんなで育てていくコンセプトで、参加者が畑に来れないときは代わりに僕が作業を行います。参加者は来たいときに畑にやって来て、それぞれ農作業をするスタイルですね。

SNSで発信したところ、近隣だけでなく大阪からも友人が訪ねてきてくれました。これから増える耕作放棄地のことを考えると、畑に興味をもってもらったり、足を運ぶ機会をつくったり、とにかく農との関わり方を増やしていきたいです。

畑に集まる仲間たちとの昼食(写真提供:佐伯さん)

まったく所縁がない地域ではなかったと思いますが、移住後の暮らしについてはいかがでしょうか

佐伯さん:今の暮らしをとても気に入っています。結婚する前に、将来は八木町で暮らしたいことを妻にも伝えていましたし、妻も石川県の田舎の出身なので馴染みのある環境でした。地域の方からも「佐伯さんのところのお孫さんか」と声をかけてもらったり、消防団に入って同世代のつながりが増えたりすることで、暮らしがますます楽しくなりました。僕の場合は、畑がある神吉地区の日役にも参加しているので、行事が重なると大変なときもあるのですが楽しくやっています。

ご家族と一緒に野菜の成長を見守られています(写真提供:佐伯さん)

これから移住や新規就農を考えている方に向けて伝えたいことはありますか

佐伯さん:リモートワークや副業ができるようになり、以前と比べて農のある暮らしが実践しやすくなりました。少し前に仕事を辞めて農業をしたいとフリーランスの方が訪ねてくれましたが、「現在の仕事も大切にした方がいいですよ」とアドバイスをしました。就農して7年が経ち、農業一本でお金を稼ぐ大変さも実感していますし、何よりご自身のなかで揺らぎがあるのであれば、無理に振り切る必要はないんですよね。

僕が農業をしている神吉地区は標高が高いので、野菜の成長スピードもゆっくりです。気候風土にあわせた野菜の育ち方があるので、人間がそこに寄り添っていく必要がありますし、僕たちの畑に関わってもらえる方々にはその時間軸を体感してもらえたら嬉しいです。目まぐるしく変化する世の中に流されるのではなく、地に足をつけていく暮らしを神吉の風景とともに提案していきたいです。

(写真提供:佐伯さん)
HP http://slowfarm.net/
SLOW FARM Instagram @slow_farm
根の音 Instagram @neno_oto
種まくラジオ https://open.spotify.com/show/7puqlee98AiTsk4O1KMIcm
オンラインショップ https://slowfarm2018.stores.jp/
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