移住者インタビュー

京丹波町ではじめたシンプルな生活
季節の風景と食材とともにあるお菓子づくり

京丹波町ではじめたシンプルな生活季節の風景と食材とともにあるお菓子づくり

今回は、2021年に京丹波町へ移住し古民家を改修した菓子工房「oyamaのおやつ」を営む杉森麻実さんにお話を伺いました。お菓子にまつわるさまざまな仕事やフランスでの生活を経て、ご自身の菓子工房を始めるに至った経緯や、ライフスタイルの変化をご紹介します。

杉森麻実さん

三重県出身。大阪の専門学校で製菓を学び、卒業後はケーキ屋に就職、その後転職を機に渡仏。レストランやパティスリーで経験を積み、帰国後はフレンチレストラン、ホテル、カフェなどに勤務。結婚を機に、2021年11月に京丹波へ移住されました。ご自宅の横に工房を構え、畑で食材を育てながら、季節の食材をおやつに詰め込んで届けられています。

はじめに、移住を考えられたきっかけについてお聞かせください。

杉森さん:大阪にある製菓の専門学校に進学し、卒業してからほとんどの期間は大阪で働いていました。小さい頃からずっとお菓子づくりが大好きで、自分でも “私はこのままケーキと結婚するんじゃないか” と思うほどのめり込んでいたのですが、林業に携わる夫との結婚を機に京丹波町へ移住することになりました。

物件探しはどのように進められましたか

杉森さん:当初は南丹市の市街地に住んでいたのですが、工房をオープンすることに加えて、食材を栽培できる畑付きの一軒家を探していたんですね。自身のお菓子づくりに対する考え方や夫の通勤、価格面など、いくつかの条件をもとに探しました。空き家バンクも見ていたのですが、理想の物件がなかなか見つからなくて1年くらいかかったと思います。最終的に夫の職場の方が空き家を紹介してくれたのですが、決め手は家から見える美しい田園風景でした。家主さんが適度に風を通してくれていたので、物件の状態はとてもよかったです。一部屋だけフローリングに改修して、それ以外はほとんどそのままです。

ご自宅兼工房の前に広がる風景(写真提供:杉森さん)

素敵な山並みですね。「oyamaのおやつ」という屋号はそこからつけられたのでしょうか。

杉森さん:山のふもとに加えて、旧姓に「山」がついていて、友達からは「山ちゃん」と呼ばれていたんです。山が好きなので、いくつかの意味を重ねてこの名前にしました。現在の営業スタイルは、オーダーメイドの記念日ケーキの販売、焼き菓子のマルシェ出店を主にしています。マルシェは京丹波町をはじめ、関西近辺に出店しています。販売方法は限定的ですが、お客さまと対面することを大切にしています。旬の食材を使っていることや、お菓子づくりに欠かせない生産者のみなさんのことを伝えたくて。

oyamaのおやつ定番の焼き菓子(写真提供:杉森さん)

杉森さん:焼き菓子は、定番商品としてレモンケーキ、マフィンやスコーンは季節ごとに変わります。あとは、畑で育てている野菜や果物、ハーブがあるので、その時々のアレンジを加えたお菓子になりますね。フレッシュな食材や顔が見える生産者の食材を並べてアイデアを考える時間がとても楽しいです。

開業に至るまでのエピソードもお聞かせいただけますか。

杉森さん:専門学校卒業後は、ケーキ屋さんで働いていました。その後、仕事を辞めて「お菓子の本場へ行こう!」と、22歳の頃にワーキングホリデーを活用してフランスに渡り、パティスリーやレストランで働かせていただいたんです。国内で転職する選択肢もあったのですが、どちらにしても一からお店のすべてを学ぶことになるのであれば、フランスに行っても同じだと思ってしまって。最初の3ヶ月は語学学校に通って、ある程度単語を覚えてから門戸を叩きました。

フランスを訪ねたことでご自身の考え方に変化はありましたか。

杉森さん:現地のみなさんのお菓子づくりに対する考え方や、時間の過ごし方を知り、自身にとってもターニングポイントとなる経験でした。一番影響があったのは、素材のおいしさに対する体験ですね。フランスはあちらこちらで日常的にマルシェが開催されているのですが、お店に並んでいるものが本当においしいんです。本場のお菓子を食べている高揚感もあったとは思いますが、それ以上に素材に余計な手を加えないシンプルなおいしさがあると知りました。

フランス在住時のお部屋からの眺め(写真提供:杉森さん)

杉森さん:日本で学んだ製菓技術も大切ではあるのですが、フランスで出会ったような、食材を“焼き込んだだけ”のケーキが本当においしくて。1年間のフランスでの滞在が、いまのお菓子づくりのベースになっています。工房を始めるなら畑がしたいと思うようになったのは、お菓子づくりに素材から関わっていきたいという心境の変化でした。マルシェで生産者のみなさんと会話しながら直接ものを買っていたことも、お客さまの反応を見ながら直接売りたいと思うようになったきっかけだと思います。

帰国されてからは、しばらく大阪で働かれていたのですか。

杉森さん:そうですね。フレンチレストランやカフェバー、ホテルなどさまざまな規模、業務内容を経験しました。小さなカフェではお菓子づくりから接客まですべてを行っていたり、母校で授業のアシスタントをしたり。レストランでデセールを担当させていただいたのは、特に大きな経験だったと思います。ケーキにはお酒を結構使うので、お酒を学ぼうとバーで少し働かせていただいたこともありました。

旬の食材つくられるオーダメイドのケーキ(写真提供:杉森さん)

杉森さん:とにかくケーキに携わりたい、働きたいという一心でしたね。好奇心に任せて3つの職場を掛け持ちしていたこともありますが、その頃はまだ独立することは考えていませんでした。ただ、ある程度の経験を積んで30代が近づいた頃、組織で働くうえで自分に求められることが変わっていることに気づきました。次の世代を育成する役割が求められ、先輩と後輩のあいだを取り持つことが増え、純粋に「お菓子をつくって誰かに喜んでもらう」という自身の喜びと、組織で働くことへのギャップを感じるようになりました。ちょうど夫と出会ったのがこの頃で、お菓子づくりで大切にしたいことを改めて考えるタイミングになったと思います。

移住をして生活の変化はどのように感じられていますか。

杉森さん:変化としては、あんまり出かけなくなりましたね。野菜も育てているので、日用品の買い物も週に1回くらいです。あとは、おもしろい変化として物欲がなくなりました(笑)。ポジティブな変化だと思っていますが、居心地が良くて出かけなくなったので、新しく服を買ったとしても着ていく機会がなくて。穏やかに日々を送っていて、そのことを旧友に話すと驚いていました(笑)。

旧質美小学校で開催された「日常vol.2」出店の様子

杉森さん:ご近所は優しい人が多いです。溝掃除や草刈りなどの日役、お祭りなど地域の行事はいろいろですが、住んでいる区では参加できる人が参加する、というスタンスです。大変なことがあるとすれば、雪かきや寒さでしょうか。移り住んで1年目は雪が積もることも嬉しかったのですが、坂の上に家があるので雪が降る日は集落の下のほうに車を移動させています。年々慣れてきたとはいえ、床に断熱材を入れていても冬場は寒いですね。また、山もお家に付随する敷地になるので、自然が身近な生活になりました。

これから移住をして何かを始めたいと考えている方にメッセージをいただけますか。

杉森さん:ひとつだけお伝えしたいのは、頑張りすぎないでほしいですね。移り住むことは頑張ることではなくて、地域に少しずつ馴染んでいくことだと思うんです。田舎でカフェをやりたい方の相談もたびたび受けるのですが、週末や祝日の営業と地域の行事が重なることも少なくはありません。全部を一度にやろうとすると、どこかに無理が生じてしまう。少しずつ馴染んでいこうという気持ちが伝われば、周りの人も協力してくれるはずです。生活の延長にある起業という選択肢を知ってもらえたら嬉しいです。

四季折々の集落の風景(写真提供:杉森さん)
oyamaのおやつ Instagram @oyama.no.oyatsu
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