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独華陶邑/ギャラリー白田

京丹波の森が育む、暮らしの道具たち

独華陶邑/ギャラリー白田 Dokkatouyu/Gallery Hakuden

独華陶邑/ギャラリー白田

30年をかけて作り上げた、二人の理想郷

京丹波町の南部、のどかな田畑に囲まれた小高い丘の上に、陶芸家の石井直人(なおと)さんの工房「独華陶邑(どっかとうゆう)」と、工藝デザイナーである妻・すみ子さんが営む「ギャラリー白田(はくでん)」がある。
 
京都生まれの直人さんは、若い頃から地球環境や自然エネルギーに関心があり、直感的に「自分が目指す道は、土のなかにある」と感じていたという。最初は自給自足の農耕生活を、やがて興味は土から生まれる「焼きもの」へ……。日本各地での修業や作陶の後、今から約30年前、直人さんは理想の作陶の地を求めて京丹波へやってきたそうだ。

独華陶邑/ギャラリー白田

まずはひとりでコツコツと林を切り拓き、登り窯と小さな庵を築いた直人さん。やがてすみ子さんがやって来ると、夫婦二人の穏やかな日々がスタート。今ではさらに広がった敷地に、ご夫妻が暮らす大きなかやぶきの古民家、すみ子さんのギャラリーも加わり、まるで森のなかの小さな村のよう。しんとした静寂に包まれるここでは、聴こえるのは鳥の声、風のざわめきばかり。自然と感受性も研ぎ澄まされていくようだ。

独華陶邑/ギャラリー白田

ご夫妻が暮らす主屋は、滋賀・東近江から移築した築150年のかやぶきの古民家だ。茅でふいた屋根や土壁は通気性がよく、断熱効果もあるため、室内はいつも心地よい空気が満ちている。また、囲炉裏で火を焚いて食事を楽しんだり、暖をとることで「立ち上る煙が、屋根を虫から守ってくれる」と直人さん。古くて新しい”エコハウス”で、二人の暮らしとものづくりが紡がれている。

灼熱の炎のなかで、土が力強いうつわとなる

独華陶邑/ギャラリー白田

直人さんの工房は、ご夫妻が暮らすかやぶきの主屋の一角にある。使う土は地元・京丹波で採れたものが中心。風が吹いて、ふと小枝が手のなかに入れば、それですっと線を描いて模様にすることも。しんとした山の静けさに包まれるなか、自然のリズムに沿って土をこね、直人さんは生活のうつわをつくり続けている。

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直人さんの作品の醍醐味は、薪の炎で焼成することで生まれる個性豊かな表情にある。窯焚きは年に一度。友人の手を借りながら、土地の傾斜に沿って築いた登り窯で3〜4日間夜通しで火を焚き続けるという。窯の温度は1200度近くまで上がり、周りも強い熱風に包まれるなか、直人さんは薪のはぜる音、炎の色から「火の呼吸」を感じ取り、新たな薪をくべていく。

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高温の炎のなかで起きる変化は、まさに神秘的。灰が降り積もって黒く焼き焦げたり、灰と土が溶けあうことで天然の釉薬となり、作品にさまざまな色や表情、手ざわりを与えていく。ひとつとして同じ作品は存在しない。

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茶室に設けたギャラリーには、直人さんの作品を見せていただいた。鉢や小皿などの食事のうつわ、ぽってりとした形が魅力の土鍋、凛とした空気を放つ茶の湯の茶碗……。どれも力強い土味がありながら、その佇まいはどこかやさしく、おおらかだ。
 
直人さんによれば「あまり手を加えすぎないこと」が、独特の風合いを生む秘密のようだ。ほど良いところで手を止め、炎の力にゆだねると、焼き上がったときに心地よい「余白」が生まれるのだという。その余白があるからこそ、直人さんのうつわに野の花を生けたり、料理を盛り込むと互いを引き立てあい、はっとするような美しさが生まれるのだろう。

「生活の美」を伝えるギャラリー白田

独華陶邑/ギャラリー白田

敷地内には、工藝デザイナーの石井すみ子さんが、暮らしの工芸品を紹介する「ギャラリー白田」もある。愛らしい木の小屋は、元々建築の仕事をしていたすみ子さんの設計。扱うのは直人さんの陶器をはじめ、すみ子さんがデザインした植物染めの衣やストール、エプロンなど。工芸作家に注文してあつらえた木のカトラリー、山ぶどうの蔓で編んだかごもある。希少な素材や技法を用いたものも多く、まるで小さな工芸ミュージアムのよう。

  • 独華陶邑/ギャラリー白田
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くすんだようなグレーの木肌のお盆は、千年以上地中に眠っていたという「神代杉(じんだいすぎ)」を用いたもの。手にとると意外にもふわりと軽く、手ざわりもすべやかだ。松の煤の墨と藍で染めた生地の、混じり気のない清々しい色にもほれぼれする。自然が生み出す色や質感は、なんと豊かなことだろう。

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すみ子さんは他に、日本各地や海外の手仕事をリサーチして出版物を制作したり、展覧会のキュレーションを手がけることもある。特に、太古の昔から植物の繊維、木の樹皮を用いて作られてきた原始布や紙に関心があるという。「これらの成り立ちをたどると、現代人が失った自然と生活の深いつながりが見えてくる。ここから現代を生きる手がかりを探してみたいのです」(すみ子さん)
 
土や火や木、手の仕事から生まれる二人の作品は、自然が生み出す生活のアート。ひとつ手にとれば、暮らしにみずみずしい彩りを添えてくれることだろう。

独華陶邑/ギャラリー白田

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