森の京都 森の京都を深く知る

Roggykei 興梠仁さん、景子さん

仕事と生活がゆるやかにつながる、京丹波町での暮らし

Roggykei
興梠仁さん、景子さん

コロナ禍をきっかけに、これまでの生き方や働き方を見つめ直し、都心を離れる選択をした人たちがいます。ファッションブランド『Roggykei(ロギーケイ)』を主宰する興梠仁(こうろぎひとし)さん、景子(けいこ)さんご夫妻もその一組。新天地の京丹波で叶えた理想のワークライフバランス、日々の暮らしがヒントとなって生まれるというクリエーションについてお聞きしました。

京丹波にファッションデザイナーがやってきた!

Roggykei

2012年にパリでデビューした『Roggykei』は、興梠さんご夫妻がデザインを手がけるファッションブランド。大阪を活動拠点に、メンズ・レディースのカテゴリーを分けないジェンダーレスなスタイル、ゆったりとした円を描くような「サークルシルエット」を生み出し、ファッション感度の高い人たちに支持されてきました。
 
そんなお二人が2020年3月、大阪の店とアトリエを畳んで京丹波へ——。流行の最先端で活躍するお二人が田舎暮らしを始めたというニュースは、驚きをもってあちこちを駆け巡りました。とはいえ、当のお二人は「昔から田舎暮らしに憧れていたんですよ」とにこやかに話します。長びくコロナ禍で時間ができ、あらためてこれからの生き方、ブランドの未来を見つめ直したご夫妻は、「今が移住のタイミングだ」と土地探しをはじめたそうです。

Roggykei

「自宅とショップ、アトリエの3棟を確保できる場所」という条件で、大阪や兵庫も含めて関西近郊を探すなかで、二人のイメージにぴたりとあったのが京丹波町の質志(しずし)集落。由良川の支流である高屋川上流の谷間に位置し、標高は400mほど。近くには京都府唯一の鍾乳洞(質志鍾乳洞)もある自然豊かなエリアです。
 
「道路沿いではなく、ゆるやかな坂を降りたところに家があるのがいいなと思いました。目の前に畑があることにも惹かれました」と景子さん。「土地を買ったら、少し離れた場所の山がついてきたのには驚きました(笑)。”田舎あるある”らしいのですが、友人が登山道をつくると張り切っているので、楽しみにしたいですね」と仁さん。

自然や土に日々ふれることが、創作のヒントに

Roggykei

見渡す限り田んぼと畑、夜には満点の星が瞬く質志での暮らしは、お二人の生活リズムやクリエーションに対する姿勢をがらりと変えたそう。以前は仕事がすべての中心にあり、展示会前は徹夜もしていたそうですが、今は9時〜18時を仕事の時間に。空いた時間は自家菜園で野菜を育てたり、近くの自然を探検したり、のんびり景色を眺めて過ごしているのだとか。
 
「何もしない時間を持つ豊かさを知りました。頭を空っぽにして風景を眺めているだけで、不思議とリフレッシュできるんです」(仁さん)。

  • Roggykei
  • Roggykei

畑仕事のほか、昔ながらの保存食づくりにすっかり夢中になっているという興梠さんご夫妻。最近のお気に入りは、庭で採れた薬草のブレンド茶だとか。「ご近所さんが農家なので、新鮮でおいしい野菜やお米もたくさん手に入ります。食生活がぐんと豊かになりました」と話します。その充実ぶりは、お二人の肌つやと弾けるような笑顔からも想像できます。
 
「2022年から米づくりもはじめたところです。昔ながらの方法で種もみから苗を育て、手植えしています。手刈り・天日干しもする予定です」(仁さん)
 
「日々土にふれることがいい刺激になって、どんどん新しいアイデアがわいてくるんです。やりたいことがありすぎてワクワクしている毎日です」(景子さん)。

コンセプトショップ「tomoribi」のこと

Roggykei

興梠さんご夫妻は移住後、自宅の裏の古民家を改装し、ブランドの世界観を伝えるショップ「tomoribi」をオープンしました。木や土壁の温もりが心地よい空間に、Roggykeiの服をはじめ、お二人が地元で仕入れた古道具、京丹波や関西で活躍されている工芸作家が手がける陶磁器や木のお盆、キャンドルなどがゆったり並べられています。なかには、近所の85歳のおじいさんが作っているという藁細工の草履やバッグも。
 
どれも二人で作家さんを訪ね、思いを伝えた上で一つひとつ選び抜いたもの。生活のなかで磨かれてきた手仕事の道具たちは、素朴な美しさでいっぱい。二人が手がける洋服ともしっくりなじみます。


roggeykei_08
roggeykei_09
roggeykei_10
roggeykei_11
previous arrow
next arrow
roggeykei_08
roggeykei_09
roggeykei_10
roggeykei_11
previous arrow
next arrow

Roggykeiにとってファッションは「自分の考えや時代を反映するコミュニケーションツール」というお二人。京丹波での暮らしのなかで、最近はここに「心地よく生きるために欠かせない存在でありたい」という思いが加わったそう。「この土地での出会いを大切にしながら、生活の中からにじみ出る本質的な美しさ、心地よさを探っていきたいんです」と話します。
 
tomoribiでは不定期で、中国茶のお茶会や稲わらでつくるしめ縄ワークショップなど、暮らしを彩るイベントも開催中。今後はカフェのオープンも企画しているそうで、地域の「新しいコミュニティハブ」としても進化していきそうです。

「循環するファッション」を目指して

Roggykei

ショップ2階に並ぶのは、二人がデザインを手がけたRoggykeiの洋服たち。屋根裏部屋のような空間で、くつろぎながら商品を選ぶことができます。なかには、ここでの暮らしからインスパイアされたデザインもあるそう……! 2021年秋には「Noragi」(野良着=伝統的な農作業着)をテーマにコレクションを発表し、ワークウェアとしての機能性を有したスタイリッシュな日常着を提案。二人の自由な発想力に驚かされます。

r_roggeykei_13
r_roggeykei_14
r_roggeykei_15
r_roggeykei_16
previous arrow
next arrow
r_roggeykei_13
r_roggeykei_14
r_roggeykei_15
r_roggeykei_16
previous arrow
next arrow

「サステナブルであること」も、興梠さん夫妻が大切にしている信条です。使う素材は、綿や麻のような着心地が良く、寿命を終えた後は土へ還る天然繊維のみ。裁断で余った端切れは捨てずに、端切れ100%で帽子やバッグを制作されています。「生地のロスを減らすために、直線裁断をする着物をヒントにパターンを引くこともありますよ」と景子さん。また、型数を減らしてタイムレスなデザインを追求すること、受注生産を増やすことで、業界全体の課題である在庫の焼却処分をなくすことも二人の目標です。
 
さらに、二人はオーガニックコットンの栽培や草木染めにも挑戦中。目指すのは、かつての私たちの暮らしのように、大地に種を蒔いて綿や麻を育て、そこから糸を紡いだり、植物で色を染めて服をつくり、最後は土へと還る「小さな循環」をつくること。今はまだ失敗続きだそうですが、「ファッションを通して、誰もが身近な環境に関心を持つきっかけをつくりたい」と考えているそうです。
 
ファッション×田舎暮らし——。二人の新しい試みには、これからの「持続可能な暮らし」を探るヒントやアイデアがたくさんつまっています。無理をせず、心地いいと感じることを楽しむことが、地球にも人にもいい影響を与えてくれるようです。

Roggykei

  • https://roggykei.com/
  • ※Roggykeiの直営店ショップ「tomoribi」は毎週、土・日・月曜に営業中(冬季休業)。最新情報はInstagramで確認を。

関連記事を見る

トップへ